COLUMN
コラム
大規模災害が起きると、水道の復旧まで数週間〜1ヶ月かかることも珍しくありません。
施設では防災トイレの早期備蓄が大切です。
本記事では、内閣府ガイドラインを元に「災害時のトイレ回数」や、必要な備蓄量の計算方法を分かりやすく解説します。
携帯トイレから仮設トイレまで、4種類の簡易トイレも比較。
具体的な選び方や正しい使い方まで、災害時に役立つ知識をまとめました。
防災体制を強化したい方や見直したい方は、最後までご覧ください。
災害時のトイレ対策が重要な理由
災害発生時はライフラインが寸断され、普段使えているトイレを使えなくなることがあります。
災害時のトイレ対策が大切な理由を、以下3つのポイントで整理してみましょう。
- トイレは水食糧より我慢がきかないため
- 水道復旧には時間がかかるため
- 衛生的な環境を維持するため
順に解説します。
トイレは水食糧より我慢がきかないため
災害時、のどの渇きや空腹感は数時間〜1日程度なら我慢できるかもしれませんが、トイレの回数はなかなか減らせないもの。
人間の生理現象である排泄は我慢が難しく、発災直後から切迫した問題となります。
排泄を我慢し続けると、次第に脱水症状や血栓などの健康リスクが高まります。
体調悪化や関連死につながることも考えられるでしょう。
水道復旧には時間がかかるため
災害時には「3日分の食料と水を備蓄すれば大丈夫」と考えがちですが、これは水道がすぐに復旧する前提の話です。
現実は甘くありません。
内閣府の首都直下地震などによる東京の被害想定では、大規模災害発生時の上下水道復旧目標は約30日。
東日本大震災では、水道が9割程度復旧するまで約24日要しました。
阪神淡路大震災では37日もかかっています。
想定よりはるかに長い期間、トイレを使えない可能性があるのです。
短期の断水ならタンク水で数回流せますが、断水が数日以上続く場合は、防災用トイレの備蓄が必須です。
参照:日本気象協会「備蓄品はこれが必要」
衛生的な環境を維持するため
不衛生なトイレ環境は、ノロウイルスなどの感染症を広げ、集団感染のリスクも高めます。
災害時の断水の状況下では、一度汚れたトイレを清掃して元に戻すことも難しくなります。
利用者の健康と尊厳を守るためには、初動段階で防災トイレを配布できる環境整備が必要です。
参照:新潟県「10月23日、中越大震災から21年 - 過去の災害を知り、未来の災害へ備えましょう-」
参照:内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
災害時のトイレ回数と必要備蓄数
防災トイレを準備する際は、何回分必要なのかを知ることが大切です。
以下では、災害時のトイレ回数や内閣府ガイドラインに基づいた必要備蓄数の計算式を紹介します。
- 災害時の1日のトイレ回数
- 防災トイレの備蓄数計算式
- 防災トイレと便袋の必要備蓄量
それぞれ詳しく見ていきましょう。
災害時の1日のトイレ回数
健康な成人のトイレ回数は、1日平均5回前後です。
ただし、この数字は平時の話です。
災害時は避難所生活のストレスや不安で、水分摂取量やトイレ回数が増減する可能性もあります。
内閣府のガイドラインでは、防災備蓄の計算基準として1日の排泄回数を「1日5回」としています。
ストレス下での利用増加やトイレの使いやすさにばらつきがある状況を想定した数値です。
施設の防災計画では「1日5回」を目安に、個人差や年齢差も考慮しながら必要な防災トイレ数を算出すると安心です。
参照:内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
防災トイレの備蓄数計算式
防災トイレの備蓄数計算式は「1日5回×人数×日数」で計算できます。
施設規模や避難者数ごとの必要数のイメージは、以下のとおりです。
【防災トイレの備蓄数計算例】
- 小規模施設:1日5回×5人×3日間=75回分
- 中規模施設:1日5回×20人×3日間=300回分
- 大規模施設:1日5回×50人×3日間=750回分
一般には「3日分あれば大丈夫」と思われやすいですが、計算してみると意外に多くの備蓄が必要になります。
災害時には仮設トイレが届くまで3日以上かかる場合が多いことから、3日分では不足する可能性が高まります。
余裕を持った備蓄計画が大切です。
参照:内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
防災トイレと便袋の必要備蓄量
災害時、防災トイレ(とくに携帯トイレ)の便袋はトイレ1回につき1枚必要です。
1人が1日5回トイレを使うなら、便袋は5枚必要になります。
大規模災害時など避難所で過ごす被災者の数・避難日数が増えると、またたく間に便袋の必要枚数は膨らみます。
| 災害時にトイレを使う人数と避難日数 | 必要な便袋枚数 |
|---|---|
| 1人が1日5回 | 5枚 |
| 1人が1日5回×3日 | 15枚 |
| 5人が1日5回×3日 | 75枚 |
| 20人が1日5回×3日 | 300枚 |
内閣府によると、避難所に仮設トイレが届くまで3日以上かかる自治体は全体の66%です。
このデータから「3日分」の備蓄目安はあくまで最低ラインで、目安として5〜7日分を見越した準備が現実的といえます。
参照:内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
簡易トイレの種類
防災トイレと一口にいっても、種類や機能はさまざまです。
施設の環境にあったトイレを選ぶことが、利用者にとっての安心・安全につながります。
- 携帯トイレと便袋
- 簡易トイレ(段ボール組立式)
- 仮設トイレ
- マンホールトイレ
それぞれ特徴やメリット・デメリットがあるため、どのタイプが最適か判断する際の参考にしてください。
▼屋外トイレについて詳しく知りたい方はこちら
屋外トイレの種類と選び方|4つのタイプを比較
携帯トイレと便袋
「携帯トイレ・便袋」は、既存の便器に取り付けて使える使い捨てタイプです。
排泄後に凝固剤を振りかけて水分を固め、臭いを軽減する仕組みが備わっています。
おもなメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
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携帯トイレは、水が使えない状況でも安心して使用できます。
簡易トイレ(段ボール組立式)
簡易トイレは、段ボールやプラスチック製のパーツを組み立てた便器で、内側に便袋をセットして使用します。
トイレを増やしたいときに便利です。
おもなメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
|
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既存のトイレが使えない状況下を想定して、簡易トイレを備蓄しておくと安心です。
仮設トイレ
仮設トイレは、便器下に便槽(べんそう)と呼ばれる貯留タンクがある独立型のボックストイレです。
便層では、排泄物を一時保管します。
おもなメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
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東日本大震災では、仮設トイレが届くまでに4日以上かかった自治体のうち、実に14%は1ヶ月以上も到着に時間を要しました。
設置・搬入に手間や時間がかかる点を押さえておく必要があります。
参照:内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」
マンホールトイレ
マンホールトイレは、マンホール上に簡易トイレや便器を設置し、排泄物を直接下水道に流すタイプです。
公共施設でよく備蓄されており、短時間で設置できます。
おもなメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
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自治体が整備する場合もあるので、近隣にもあるか確認をしておくと安心です。
防災備蓄におすすめ|簡易トイレの選び方
4つのトイレタイプで「どれを選ぶべきか」悩んだ際は、以下3つのポイントを押さえて選びましょう。
- 導入コストと人数に応じて選ぶ
- 設置場所や保管スペースで選ぶ
- 簡易トイレ・凝固剤の使用期限切れを考慮して選ぶ
上記を踏まえれば、コストと実現性のバランスが取れた、現実的な防災計画が立てやすくなります。
導入コストと人数に応じて選ぶ
防災トイレを選ぶときは、人数と予算のバランスがポイントです。
- 小規模:携帯トイレ(75〜300回分用意)
- 中規模:簡易トイレと携帯トイレの組み合わせ
- 大規模:常設型の防災トイレシステムの導入も検討
災害による避難生活が長期間の場合や大人数のケースでは、簡易トイレや仮設トイレがおすすめです。施設規模や予算に応じて、最適なトイレを選びましょう。
設置場所や保管スペースで選ぶ
防災トイレを選ぶときは、設置スペースと保管方法の両方を考えることが大切です。
| 種類 | 設置場所の特徴 | 設置時の注意点 | 特徴・メリット |
| 携帯トイレ | 既存トイレ内 | - |
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| 段ボール簡易トイレ | 廊下や空きスペース | 設置スペースの確保 |
|
| 仮設トイレ | 屋外や大型スペース |
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保管場所の周知も必須です。
災害時にスムーズに取り出せるよう、書類棚やキャビネットなど誰もがすぐに取り出せる場所に一定量を置きます。
保管場所は関係者に共有しておきましょう。
簡易トイレ・凝固剤の使用期限切れを考慮して選ぶ
防災用の簡易トイレや凝固剤は、買って終わりではなく、定期的な期限確認と更新が大切です。
凝固剤の主成分である給水性ポリマーは、製品によって5〜10年で臭いや固化力が弱まる可能性もあります。
期限管理を簡単にしたい場合は、「水循環式」や「コンポスト式」が便利です。
普段は常設トイレとして使え、災害時も単独で稼働します。防災対策と日常の利便性を両立できるでしょう。
防災トイレの正しい使い方
防災トイレを準備しても、使い方を知らなければ災害時に正しく使えません。
防災担当者が手順を理解し、スムーズに対応できる体制作りが大切です。
以下では、携帯トイレの使い方を4ステップで紹介します。
- 使用前にカバー用の袋をかぶせる
- 排泄用袋をセットして使用する
- 汚物全体に凝固剤をふりかける
- 袋の口を結んで廃棄袋にまとめる
事前に周知しておけば、災害時のパニックの状況下でも素早く対応できます。
▼防災トイレについて詳しく知りたい方はこちら
防災トイレに耐久性は必要?過去の災害時の問題や解決策を紹介
1. 使用前にカバー用の袋をかぶせる
防災トイレセットには、複数の袋が含まれています。
まず便座を上げ「カバー用の袋」を便器全体にかぶせましょう。
カバー袋があることで、次に使う排泄用袋が便器内の水で濡れるのを防げます。
万が一、排泄用袋の使い方に失敗しても、カバー袋ごと交換すれば大丈夫です。
便器を汚すことなく、衛生的にトイレを使い続けられます。
2. 排泄用袋をセットして使用する
カバーの上に「排泄用袋」をセットし、トイレを使用します。
袋のサイズが小さい場合や、便座に汚れがなければ、カバーの上に直接排泄用袋をセットしても問題ありません。
便座の下部が汚れるのを避けたい場合は、便座を下げたまま、排泄用袋で便座を覆うようにセットするとよいでしょう。
3. 汚物全体に凝固剤をふりかける
使用後は汚物に凝固剤を1袋ふりかけます。
凝固剤に含まれる給水性ポリマーが水分を吸収して固め、臭いを閉じ込めます。
便だけの場合は、少量の水を先にかけてから凝固剤をふりかけるとよい場合もあります。
製品によって凝固剤の使用タイミングが異なるため、事前に説明書を確認しましょう。
4. 袋の口を結んで廃棄袋にまとめる
排泄用袋の口を固くねじって結び、空気を抜いて臭い漏れを防ぎます。
結んだ排泄袋は大きなゴミ袋などにまとめ、目安としてゴミ袋は5〜10回分ごとに交換しましょう。
重くなり過ぎるのを防ぎ、破裂や臭い漏れを軽減できます。
消臭機能付きのゴミ袋を2重にすると、より効果的です。
防災トイレと一緒に準備したいもの5選
防災用トイレの備えだけではなく、いくつかの補助グッズがあると安心です。
災害時でも快適かつ清潔に防災トイレを使えます。
以下では、役立つ5つのアイテムと、選び方のポイントを分かりやすく解説します。
- トイレットペーパー(長尺タイプ)
- 使い捨てポリエチレン手袋
- 消臭剤と消臭袋
- ウェットティッシュ(除菌タイプ)
- LEDランタン(人感センサー付)
いざというときに備えておきましょう。
1. トイレットペーパー(長尺タイプ)
もっとも基本的でありながら、つい備蓄を忘れてしまうのがトイレットペーパーです。
より快適なトイレ環境にするために、防災トイレと合わせた準備をおすすめします。
1人あたり3〜5ロール(3日分)が備蓄の目安です。
通常の芯ありタイプより「2倍巻き」や「200m長尺タイプ」を選ぶと交換回数が減り、省スペースで管理しやすくなります。
2. 使い捨てポリエチレン手袋
使い捨てポリエチレン手袋は、防災トイレの処理時に手を清潔に保つ必需品です。
目安として、1人あたり10〜20枚(3日分)あるとよいでしょう。
肌触りがよくまとわりつかないポリエチレン素材は着脱がスムーズで使いやすいため、施設での備えにおすすめです。
3. 消臭剤と消臭袋
防災トイレの臭い対策には、消臭機能付きのゴミ袋(おむつ用など)で廃棄便を二重に包むのが効果的です。
粉末・液体タイプの消臭剤をトイレ周辺に置くと、臭いを大幅に軽減できます。
尿・便臭に特化した介護用消臭剤なら、災害時でも快適なトイレ環境を守れます。
4. ウェットティッシュ(除菌タイプ)
大規模災害時は、断水により手洗い水を確保できない状況が続きます。
アルコール除菌タイプのウェットティッシュ(厚手・大判推奨)があれば、トイレ後の手指の除菌も可能です。
備蓄量は施設・人数により変動しますが、目安は1人10〜20枚です。
とくに複数人が利用するトイレでは、感染症予防の観点から必須アイテムといえます。
5. LEDランタン(人感センサー付)
停電時の暗いトイレでは、安全性が大きく低下します。
人感センサー付きLEDランタンは、電池の消費を抑えながら長時間稼働できる点が特徴です。
施設規模に応じて、2〜5個の配置がおすすめです。
個室トイレだけでなく廊下や周辺も明るく、安全で衛生的な環境を確保できます。
センサー付きランタンを配置する場合は、電池管理や配置なども計画を立てるとよいでしょう。
まとめ:災害時のトイレ回数を計算して備蓄管理を徹底しよう
災害時のトイレ回数は「1日5回」とガイドラインで示されています。
被災者の人数と必要日数を掛け合わせると、多くの備えが必要です。
防災トイレは単なる備蓄品ではなく、被災者の安心と尊厳を守るための必要な投資です。
H.O.C株式会社では、施設に合わせた防災トイレの設計から施工、運用管理までトータルでサポートしています。
高度処理浄化槽「ソフィール」や、手軽に設置できる「防災サイコロトイレ」など、複数のソリューションを提供可能です。
防災トイレの設置や備蓄管理でご不明な点やお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
この記事の監修者
西岡 良祐
H.O.C株式会社 福岡営業本部 主任
